大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和43年(行コ)61号 判決

控訴人

日本国有鉄道

代理人

田中治彦

外六名

被控訴人

公共企業体等労働委員会

代理人

峯村光郎

外四名

被控訴人補助参加人

国鉄労働組合

代理人

大野正男

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所も控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、つぎに付加訂正するほかは、原判決の理由中に説示するとおりであるから、その記載を引用する。

(一)  原判決三九枚目表九行目「いずれも……」から同一一行目「ものとみなす」までを「被告補助参加人の主張するところであるが、被告はこれに反する主張をしていないし、原告はこれを認めているところである。」と訂正する。

(二)  同四八枚目表九行目「しかしながら、……」から同四九枚目表一行目「……ならない。」までを「思うに、本件につき適用される労働組合法第七条にいうところの使用者は、本件につき準用される同法第二七条との関連においてこれをみれば、雇主である企業主体(本件においては、控訴人)を指すものと解するのが相当である。しかしながら、だからといつて、かかる意味における使用者本人またはその代表者のした行為のみが不当労働行為となり、使用者はその結果についてだけ責任を負えば足りると解すべきものではない。不当労働行為制度は団結権を侵害しまたは侵害するおそれのある行為から、労働組合を守りその健全な発展を企図するものであつて、その行為責任は、刑事民事のそれとは異なり、労働組合法が定めた労働法上の特殊の責任であるから、その成否を判断する基準は労働関係の特殊性に求めなければならない。すなわち、これを不当労働行為の一類型たるいわゆる支配介入についてみるに、労働組合関係において労働者および労働組合に対応する者は使用者およびその利益を代表する者(労働組合法第二条第一号参照)であり、これらの者の支配介入を禁止し、これを排除しなければ前叙不当労働行為制度の目的を達成しえないとともに、反面使用者はこれらの者によつてなされた支配介入の効果を排除しうる立場にあり、使用者にその排除を期待するのが労働組合の健全な発展を期待するうえで効果的であり、かつ、かかる侵害によりいわば反射的に利益を受けているといえる使用者にその侵害を排除せしめることが不当労働行為制度の趣旨に背致するものでないというべきであるから、使用者は、その利益を代表する者がその立場において行つた支配介入について責任を負い、その原状を回復する義務を負うと解するのが相当である。その際支配介入の行為が使用者のためにいわゆる代理権を有していることを必要とするものではない。けだし、前叙のところから推論しうるように支配介入のごとき不当労働行為については、使用者と行為者との間に取引法の原理たる代理の概念を敢えて導入する必要なく、利益代表関係を認めるだけで足りるからである。本件についてこれをみるに、前記三助役が公共企業体等労働関係法第四条第二項に定める告示により労働組合法第二条第一号に所定の使用者の利益を代表する者に該当することは当事者間に争いのないところであり、前叙の事実によれば、前記情勢下において行われた右三助役の本件行為は助役としての立場においてした支配介入といいうるから、右は不当労働行為であり、使用者たる原告は右行為につきその責に任じなければならないというべきである。なお、渡辺溜助役については、井上猪熊の妻を子供のころから知つており、その両親とも古くから比較的懇親な関係にあつたところから、平素より井上に親近感をもつていたことが前記行為に出た動機となつていることは、右に認定したとおりであるが、そのなされた場所および前叙のごとき本件の背景を考慮に入れるときは、いまだ右行為が助役としての立場を離れ、私生活関係において行われたものとみることができないし、古村達夫助役の行為はいずれも勤務場所を離れた飲食店において行われていることも、右に認定したとおりであるが、右行為の内容および前叙のごとき本件の背景を考慮に入れるときは、右行為を助役としての立場で行つたものと目することの障害となるものではない。」と訂正する。

(三)  同四九枚目表九行目「思うに……」から同五〇枚目裏五行目「はできない。」までを「思うに、原告の大分鉄道管理局長が所論のごとき指示をしたことは、前認定のとおりであるが、このことは、たんに同局長ひいては原告が支配介入行為の防止を意図していたことを示すにすぎないもので、三助役の行為を不当労働行為と認定することの障害となるものではなく、かくして、三助役の行為が不当労働行為と目される以上、原告はその責に任ずべきであつて、原告主張のような指示の存在によつてその責を免れうるものでないと解するのが相当である」と訂正する。

(四)  同五〇枚目裏九行目「しかしながら、……」から同五一枚目裏七行目「……できない。」までを「しかしながら、三助役の前記行為が私的な立場においてでなく、助役としての立場において行われたものであること前叙のとおりであつて、原告が所論のような指示をしたからといつて、それに反する三助役の行為が直ちに職務外の私的生活関係において起つたものであるということはできない。」と訂正する。

(五)  同五三枚目表一、二行目の全文を「本件救済命令は原告に対し所定の業務命令を出すことを命じることによつて違法状態の原状回復を企図しているのであり、本件の場合その措置は相当にしてかつ適法といえるのであつて、三助役が直接右命令に拘束されないからとつて、右命令の違法をきたすものではない。」と訂正する。

二そうすると控訴人の請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、 第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(小川善吉 小林信次 川口富男)

原告

日本国有鉄道

被告

公共企業体等労働委員会

被告補助参加人

国鉄労働組合

〈参考 原判決〉

(東京地裁昭和四〇年(行ウ)第一四〇号同四三年一二月一八日判決)

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実〈省略〉

理由

一、被告が、被告補助参加人国鉄労働組合から、昭和三九年一〇月および同四〇年六月の二回に、原告を相手方として申し立てられた公共企業体労働委員会昭和三九年(不)第一〇号同四〇年(不)第一号日本国有鉄道大分鉄道管理局不当労働行為救済申立事件について、昭和四〇年一一月一日付で別紙命令(命令第二九号)に記載の内容による被告補助参加人組合の申立を一部認容した救済命令を出し、その命令書が同年同月二日原告に交付されたこと、右命令によると、大分鉄道管理局管内の別府駅、大分運転所および中津保線区の助役らが、使用者たる原告の利益を代表するいわゆる管理者たる地位にあるものとして、被告補助参加人組合の組合員に対し、同組合を脱退するようにしようようし、また同中津保線区の助役が同組合の組合員の組合活動に干渉し、もつて同組合の運営に介入したとして、原告に対し、右助役らをして、謝罪の文書を同組合に交付させるとともに、同人らに今後それぞれ右のような行為を繰り返さないよう注意を与えるべきことを命じていることはいずれも当事者間に争いがない。

二、原告は、本件命令には請求の原因第二項に指摘するごとき事実認定上の違法があると主張するので、まずこの点について判断する。

(イ) 本事件の背景について

国鉄労組が昭和二一年に結成され、国鉄労働組合員の生活と地位の向上をはかることを目的とする全国的組織の労働組合であること、国鉄労組が昭和二三年七月のマッカーサー書簡による同年政令第二〇一号および同二四年の公労法制定以後、争議権を剥奪され、その代償として強制仲裁制度が設けられたこと、その後昭和三二年頃から国鉄労組には全国のかなりの地方において組織分裂が生じ、それら離脱者らによつて新たな組合が結成され、ついでそれらの組合の多くによつて新たに全国的組織として新国鉄労働組合連合(以下「新国労」という)が結成されたこと、国労大分地方本部は国鉄労組の組合員のうち大分鉄道管理局に所属する者によつて組織される国鉄労組の下部機関であること、大分地本執行部の一部にはかねてより国鉄労組本部およびこれが加盟する総評などの運動方針に不満を抱き、国鉄労組の規約に反して同盟傘下の地方組織への加入を図るなどの組織方針を指向する動きがみられたこと、訴外甲斐信一が昭和三六年八月以降引き続き同地本執行委員長の地位にあつたこと、昭和三九年一〇月初め国鉄労組中央本部が中央斗争委員会を開き、大分地本執行委員会の機能および権限を停止するなどの決定を下したこと、同年同月八日以降甲斐信一ら旧執行部を中心とする国鉄労組脱退ならびに新組合結成推進の動きが公然化し激しいものとなつたこと、右一〇月八日以降相当数の組合員が国鉄労組より脱退し、右脱退者をもつて甲斐信一を委員長とする国鉄大分地方労働組合が結成され、同組合が新国労に加入したこと、昭和三九年一〇月九日国鉄労組中央本部から派遣された同神戸中央本部副委員長が日吉大分鉄道管理局長らに会見を求め、下部機関の幹部に局長から不当介入のないよう指示されたい旨の申し入れをしたこと、右同月一四日国鉄労組側が局長に対して、大分電務区の管理者が同電務区四階講習室を甲斐ら脱退派がその活動のための事務所として使用しているのを放置黙認しているとし抗議を行つたこと、原告の大分鉄道管理局長が同年同月八日以降再三にわたり、下部機関に対して、「労働組合の組織問題については、管理考は常に厳正中立の立場をとるよう」指示したことは、編注、〈以下のかつこ内は控訴判決理由一(一)で訂正された。〉いずれも原告と被告補助参加人との間には争いがなく、被告は明らかに争わないので、これを自由したものとみなす。

右の事実によると、大分鉄道管理局の管内には国労に属する組合と新国労に属する組合の二つの組織が対立併存することになり、両者間にはげしい組織上の紛争を生ずることになつたわけであるが、かような二つの労働組合間の争いは、当時の国労とその使用者たる原告との間の労使関係に険悪な対立状態を生ぜしめていたことは容易に推認されるところであり、以下に認定する事実はかような事情のもとに発生したものである。

(ロ)被告の事実認定についての検討

(A) 渡辺溜関係事実

昭和三九年一〇月一〇日、当時別府駅首席助役であつた訴外渡辺溜が、たまたま同駅旅客掛(改札担務)で精算事務を担当していた訴外井上猪熊の部屋を通りかかつたところ、右井上が精算事務机のうえに国鉄労組の脱退届用紙をおき考えこんでいる風であつたことは当事者間に争いがない。〈証拠〉を総合すると、右のように井上猪熊が思い悩んでいる風であるのをみた渡辺助役は、井上の妻を子供の頃から知つており、その両親とも古くから比較的懇親な関係にあつたため、平素より井上に親近感をもつていたところから、井上に対して、「管理局の職員はほとんど新国労に入つたから、君も心配せんでいいから早く国労への脱退届を書いて出したほうがよい」という趣旨のことを述べ、ついで翌一一日午前八時半に近い頃、井上が二四時間勤務の仕事を終える少し前、精算事務関係の書類や不足運賃などを駅長室に届けにいつた際、その場に渡辺助役が居合せたのであいさつをしたところ、同助役は井上に対し「昨日のは書いて出したか」という趣旨のことを述べたことが認められる。〈証拠判断省略〉

この点について原告は、渡辺助役はただ単に「心配せんでもよい。適当にやつたらよい」と言つただけであつて、その発言は日常のあいさつと何ら異なるものではなかつたというが、前示各証拠によると、同助役の井上に対する発言が所論の程度のものではなかつたことが認められる。また大分鉄道管理局は原告本社と連絡のうえ再三にわたり管理者が厳正中立の立場をとるよう指示していたところから、渡辺助役の発言が井上に対する国労からの脱退しようようなどというような大それた効果を期待してされたものと解することはとうてい吾人の常識が許さないと主張し、大分鉄道管理局がその頃再三にわたり管理者に厳正中立の立場をとるよう指示したことは前示のとおりであるが、そのような事実があつたからといつて、渡辺助役が前示認定のごとき発言をしたと認定するにつき何ら妨げとなるものではない。なお、原告は乙第一〇号証のうち渡辺溜作成にかかる誓約書は同助役が心身疲労の果て、自己の意思に反して真実に反する事実を記載したものであると主張し、〈証拠〉によると、原告の主張事実にそう部分があるが、他方、〈証拠〉に徴すると、本件命令の理由第2(4)ロにおいて説示するとおり、国労大分地本執行委員長代行中田哲夫らの誘導によつて渡辺助役が右誓約書を書いたとしても、未だ同助役が事実に反することを書いたものとは認めがたく、原告の主張にそう前示各証拠はいずれも信用しない。

(B) 小野正三関係事実

昭和三九年一〇月一二日昼の休憩時間中に、当時大分運転所の助役であつた訴外小野正三が国労大分地本前執行委員長甲斐信一から、電話で同運転所修車掛の訴外足立直泰がいたならば、甲斐か訴外池辺睦男に連絡してほしいといつていた旨伝言してくれとたのまれ、同日昼休すぎ右運転所二階建広舎前で足立に会つた際甲斐からの依頼を伝えたことは当事間に争いがない。〈証拠〉を総合すると、その際小野助役は右足立に対して、「甲斐前委員長が会いたいと言つているから会つてやらないか」という趣旨のことを述べたところ、足立は当時まだ国労に残るか新国労に移るか決心していなかつたが、もし甲斐に会うと強引に新国労に移るよう勧められることが必須であると思われたので、「助役さん、それは悪いわ」(会うのは困るから、会いたくないという意味)と答えたこと、かようにして二人は庁舎前を歩きながら問答をしていたが、小野助役は足立の肩に手をかけあたかも抱きかかえるような姿勢をとり、さらに重ねて「助役の立場からはいえないので、小野個人としていうのだが、甲斐に会つてやつたらいいじやないか、会つてやつてくれ」と繰り返し述べたので、足立は「甲斐には会いたくないが、池辺睦男になら会つてもよい」と答えたところ、小野助役は「それじや君は国労に残るのか」と語気を強めて述べたが、足立は「助役さんには悪いけれども私は残ります」と答えたことが認められる。〈証拠判断省略〉しかして右認定の事実および前に本事件の背景の項で説示した事実とを考えあわせるときは、小野助役は足立直泰に対し新国労を結成しつつある甲斐信一に協力してやつてほしい趣旨で前記のごとき発言をしたものと推認するのが相当である。

原告は、大分鉄道管理局が再三にわたつて管理者は厳正中立の立場をとるように指示したことから、小野助役に前示のごとき発言があつたとは考えられないというが、この点については前に渡辺溜事実関係の項で述べたと同じく、小野助役が前示認定のごとき発言をしたと認定するにつき何らの妨げとなるものではない。また小野助役が右のような発言をしたと認定することは甚だ不自然であり、かつ極めて予断的であるというが、右のように認定することが、必ずしも不自然であり、かつ、予断的であるとすることはできない。

(C) 古村達夫関係事実

(A) 小野一徳関係

昭和四〇年二月頃、当時中津保線区首席助役であつた訴外古村達夫が、同年同月一一日夕刻、中津市内所在のバー「ツアールスカヤ」で同保線区軌道掛の訴外小野一徳らに出会い同席したことは当事者間に争いがない。〈証拠〉を総合すると、前示小野一徳は当時国労の新田原線路班の班長の地位にあつたものであるが、同人と同僚の二宮軌道掛(当時国労組合員)の二人がバー「ツアールスカヤ」で同席し飲酒していたところ、前示のとおり訴外古村達夫首席助役が中津線路区の職員三名を同伴し右バーにやつて来て、小野、二宮と合流同席したこと、右席上で同席の六名の間で国労、新国労など労働組合のことが話題となつたが、その際古村助役は小野に対し「国労に残つていると大分に転勤させない。掛職試験を受けても、自分が中津にいても、大分の局に行つても通させない。それが困るなら新国労に行け」という趣旨のことを何回も繰り返し述べたことが認められる。〈証拠判断省略〉

(B) 上田百治関係

昭和四〇年二月二二日午後五時五〇分ごろ、中津保線区事労所において、同保線区技術掛の訴外上田百治と同均本正勝が組合関係の問題について議論したことは当事者間に争いがない。〈証拠〉を総合すると、前示上田百治は当時国労中津保線区分会執行委員の地位にあつたが、昭和四〇年二月二二日の退庁時間後も中津保線区事務所で残業に従事していたところ、古村達夫首席助役と新国労組合員である技術掛兼助役坂本正勝の両名が駅前付近の食堂「みなせ」で多少飲酒したのち、同日五時五〇分ごろ右事務所に帰つてきたこと、その際右三名の間で国労、椎田線路分区の組合員全員名義で作成し新国労施設部会長あてに提出された「要請書」と題する文書のことが話題となつたが、右文書は椎田線路分区の国労組合員は当分の間国労から新国労に移籍することをしないから、新国労の移転に関する一切のオルグを今後絶対に断わる旨申し入れたものであるが、その文書の原案を上田百治が作成したものであることを同人自身も認めたこと、均本は上田に対し椎田線路分区の若い組合員の意思を束縛しており、また右要請書に押捺された印影につき印鑑盗用の事実があると述べ、上田を非難したりなどしていたが、その間にあつて、古村助役は上田に対し、「椎田線路分区の方は漸次新国労に加入するように勧誘しようと思つている。若い前途のある青年を自分に背かせると、前途の支障になるから、そういう支障になるような勧誘はやめたがよい」という趣旨のことを何度も繰り返し述べたことが認められる。〈証拠判断省略〉

次いでその後古村助役が上田、坂本の両名に酒を呑みに行こうと言い出し、三名がともに中津市内の酒場「二八万石」に赴いたことは当事者間に争いがない。〈証拠〉を総合すると、右酒場「二八万石」でも前とほぼ同様な話が続けられ、とくに坂本は国労の組合運動のあり方を非難したりなどしたが、ここでも古村助役は上田百治に対して、「椎田線路分区の国労の組合員を少しずつ新国労に勧誘しようと思つているから、その邪魔をするな。自分には局長がついている。自分はそのうち局の方にいつて人事を扱うことになるかも知れない。若い青年が自分にたてつくと損をすることになるから、若い者が国労に残るような勧誘をするな」などという趣旨のことを繰り返し述べたことが認められる。〈証拠判断省略〉

(ハ) 結語

以上に説示したところによると、本件命令が渡辺溜、小野正三および古村達夫の行為として認定した事実は、細部については格別、その大綱はこれを十分に肯認することができる。したがつて、本件命令には原告主張のごとき事実認定の誤りを犯した違法があるとすることはできず、その主張は失当たるを免がれない。

三、原告はさらに、本件命令には請求の原因第三項に述べるごとき事実認定および法解釈上の違法があると主張するので、次にこれについて検討する。

(イ) 各助役の行為と使用者たる原告の責任原告はまず、本件命令の対象とされている渡辺溜、小野正三および古村達夫の三助役につき、一般的に原告の代理権を与えていないことを理由として、右三助役の支配介入行為の責任を原告に帰せしめることは許されないと主張する。そして〈証拠〉によると、右三助役は管理者といつても比較的下級の役職であり、直接の上司たる駅長、運転所長または保線区長の指示命令にしたがつてこれを補佐し、その業務の処理を担当しているにすぎず、ただ上司が不在のときその業務を代理するだけであつて、一般的に原告の代理権を与えられているものでないことが認められる。〈編注、以下のかつこ内は控訴判決理由一(二)で訂正された〉しかしながら、不当労働行為の主体となるのは常に使用者本人またはその代表者ないし代理人に限るべきものではない。すなわち、通常使用者とは個別的労働関係における一方当事者であつて、他方当事者たる労働者に対し雇主たる地位にある者をいうのであるが、不当労働行為の一類型たるいわゆる支配介入の成否を論ずるときは、それが集団的労働関係における問題であるところから、その場合の主体たる使用者とは、雇主たる使用者のほか使用者の利益を代表する者(労働組合法第二条第一号参照)をも包含しそれらの者につき支配介入行為があつたときは、雇主たる使用者はその責に任ずべきものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、前記三助役が公共企業体等労働関係法第四条第二項に定める告示により労働組合法第二条第一号に所定の使用者の利益を代表する者に該当することは当事者間に争いのないところであるから、三助役のした介入行為につき使用者たる地位にある原告はその責を負わねばならない。

原告はまた、三助役らを含む管理者に対し昭和三九年一〇月初め以来表面化した国労大分地本の組織上の紛争に際して厳正中立の立場を維持し、不当労働行為にわたるような行為に出ることのないよう度々指示しているから、上司の意思がそこにあり、いやしくも不当労働行為にわたるような行為に出ることは上司の意思に反する旨を十分に認識していたのであり、かような場合には使用者たる原告に三助役の支配介入行為の責を帰すべきではないと主張する。〈編注、以下のかつこ内は控訴判決理由一(三)で訂正された〉思うに現行法上における不当労働行為制度は、労働者の団結権を実質的に保障することによつて円滑

労使関係を形成することを目的とするものであり、そのため労働者の団結権を侵害し、もしくは侵害するおそれのある行為がなされた場合には、その結果を除去し、そのような行為がされなかつたと同様な状態に回復しようとするものである。してみれば、結果的に団結権を侵害し、もしくはそのおそれのある使用者もしくはその利益を代表する者の言動は、それが行為者の認識のもとに行われたものである限り、その主観的意図のいかんにかかわりなく、すべて不当労働行為に該当し、その結果を除去することが、右制度の趣旨にそうゆえんのものである。ただ団結権を侵害し、もしくは侵害のおそれのある行為であるか否かは、たんに外形的な使用者もしくはその利益を代表する者の外形的な行為だけでなく、当該行為のなされた当時における諸般の状況のもとにおいて具体的に判断することが必要である。たとえば相手方が詐術、欺計を用い、あるいは挑発したため、それ自体として不当労働行為とみられるような結果を招来したというような特別な事情がある場合には、右行為をもつて団結権を侵害し、もしくは侵害するおそれのある行為と評価することはできない。これを本件についてみるに、原告の大分鉄道管理局長が所論のごとき指示をしたことは前に認定したところであるが、このことはたんに大分鉄道管理局長ひいては原告が支配介入の意思を有するものでなかつたことを推認するにとどまり(このことが不当労働行為の成立を阻却するものでないことは前述のとおりである)それ以上に三助役の行為が団結権を侵害し、もしくは侵害するおそれのある行為に該当すると評価することを妨げる特別な事情であるとすることはできないし、他に本件における全証拠を精査してみても、右にあげたような特別な事情のあつたことが認められないから、原告は右のごとき指示をしたことによつて三助役のした介入行為による責任を免れることはできない

原告はさらに、右のような指示をしていたのであるから、三助役の介入行為はまつたく職務外の私的な生活関係においておこつたものであるから、これを原告の責に帰すべきではないと主張する。〈編注、以下のかつこ内は控訴判決理由一(四)で討正された〉

しかしながら、原告が所論のような指示をしたからといつて、それに反する三助役の行為が直ちに職務外の私的な生活関係においておこつたものであるということはできない。そればかりか仮に右三助役の行為が所論のごとく私的生活関係においておこつたものと評価しうるとしても、なお支配介入行為に該当するものといわねばならない。けだし、不当労働行為制度の目的を前示のごとく解すべきものである以上、使用者もしくはその利益を代表するものによつてされる団結権の侵害もしくは、そのおそれのある行為の労働者の団結権に及ぼす影響の点につき、それが職務上行われようと、職務外において行われようと、その間に何ら法律上の差異を見出し得ないからである。ただそれが職務外において行われたような場合には、相手方との特殊な身分関係などがあるなど特別な事情があるときに限り、当該行為を全体として支配介入行為とは評価し得ない場合があるというにとどまる。これを本件についてみるに、前示認定のごとく、渡辺溜助役が井上猪熊の妻を子供の頃から知つており、その両親とも古くから比較的懇親な関係にあつたところから、平素より井上に親近感をもつていたため支配介入的言動をしたとしても(前示二、(ロ)(A)参照)、そのような関係をもつてしては未だ前示特別な事情があるとみることはできないし、他にこれを認めるものはない。したがつて、原告は右三助役の支配介入行為についての責を免がれることはできない。

(ロ) 本件命令の主文の適法性

原告はまた、原告に対し助役らに謝罪文を出すように命ずることを内容とする本件命令は、業務命令の範囲外のことを命ずるものであつて違法であると主張する。

原告が公共企業体等労働関係法の規律を受ける使用者として多数の国鉄職員を雇用し、労働法上の主体たる地位をもち、国鉄職員をもつて構成する労働組合と団体交渉などをしていることは公知の事実である。原告がこのような法的性格を有する以上、使用者たる原告の利益を代表する者が組合の運営に支配介入したためその責任を負わねばならぬ場合に、労働委員会としては当該不当労働行為の救済を実現するため必要にして妥当と思料する一切の処分を命じうる権能を有するから、同委員会が使用者に対して、支配介入をした利益代表者に注意を与え、かつ、申立人に対して文書をもつて陳謝を命ずることは何ら差し支えないところであり、使用者がかような命令を受けた場合に、その内容を履行することは、当然に義務の範囲に属するものというべきである。その意味において、原告は労働委員会の命令を受けたときは、これに服すべき公法上の義務を負担し、各助役に対し命令所定の業務命令を出すべき義務を有する。したがつて、被告が原告に対し前示のごとき作為義務を命じたことには何らの違法も存しない。このことは、右助役らの行為が原告の意思にもとづかず、むしろこれに反したものであつたとしても、各助役の支配介入行為につき原告がその責に任じなければならぬこと前示のとおりであるから、その故にこの命令が不適法となるいわれはない。なお、三助役は本件救済命令の当事者ではないから、直接右命令に拘束される法律上の効果を受けるものでないことに原告の主張するとおりであるが、〈編注、以下かつこ内は控訴判決理由一(五)によつて訂正された〉もし原告が前示業務命令を発したにもかかわらず、これに従わないときは相当な処分を受けることを免がれないであろう。

(ハ) 結語

してみれば、本件命令には原告主張のごとき事実上および法解釈上の違法があるとすることはできず、その主張もまた失当というほかはない。

四、よつて、本件命令の違法事由として原告の主張するところはすべて理由がないので、原告の本訴請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、 第九四条後段、第九三条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。(西川要 岡垣学 瀬戸正義)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例